2019/07/08
今年から来年にかけて相続法が大きく改正されます。この改正で、残された配偶者が安心して安定した生活を過ごせるようにするための施策などが導入されます。7月1日に施行になった部分もあります。改正により、自分が亡くなったとき、あるいは家族が亡くなったときに生ずる相続が、どのように変わるのかご紹介します。
配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合、終身または一定期間その建物を使用することができる権利です。これは、建物についての権利を「負担付きの所有権」と「配偶者居住権」に分け、遺産分割の際などに、配偶者が「配偶者居住権」を取得し、配偶者以外の相続人が「負担付きの所有権」を取得することができるようにしたものです。配偶者居住権は、自宅に住み続けることができる権利ですが、完全な所有権とは違い売ったり貸したりすることができない分、評価額が低くなります。結果、配偶者は自宅に住み続けながら、預貯金などの他の財産をより多く取得でき、配偶者のその後の生活の安定を図ることができます。 (令和2年4月1日施行)
自筆証書遺言は、添付する目録も含め全文を自書で作成する必要がありましたが、負担を軽減するため、遺言書に添付する相続財産の目録について、パソコンで作成した目録や通帳のコピーなどの書面を添付することで自筆証書遺言を作成することができるようになります。 (平成31年1月13日施行)
自筆証書遺言は自宅で保管されることが多く、作成しても紛失したり捨てられてしまったり書き換えられたりするおそれがあるなどの問題がありました。こうした問題により相続紛争が生じることを防ぎ、自筆証書遺言を利用しやすくするため、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が創設されます。 (令和2年7月10日施行)
相続人ではない親族(子の配偶者など)が被相続人の介護をすることが多くありますが、改正前は、遺産の分配を受けるできず、不公平との指摘がされていました。このような不公平を解消するために、相続人ではない親族も、無償で被相続人の介護に貢献し、被相続人の財産の維持または増加について寄与をした場合には、相続人に対し金銭の請求をすることができるようになりました。 (令和元年7月1日施行)
配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していた場合、遺産分割がされるまでの期間、無償で住み続けることができる権利です。配偶者短期居住権は、被相続人の意思などに関係なく、相続開始時から発生し、遺産分割により自宅を誰が相続するかが確定した日(その日が相続開始時から6か月を経過する日より前に到来するときには、相続開始時から6か月を経過する日)まで、その建物に住むことができる権利です。自宅が遺言により第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には、その建物の所有者が権利の消滅の申入れをした日から6か月を経過する日まで、配偶者はその建物に住むことができます。 (令和2年4月1日施行)
結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して自宅の遺贈または贈与がされた場合、遺産分割の計算上、遺産の先渡し(特別受益)がされたものとして取り扱う必要がないこととなりました。
改正前には、被相続人が生前、配偶者に対して自宅の贈与をした場合、その自宅は遺産の先渡しがされたものとして取り扱われ、配偶者が遺産分割で受け取ることができる財産の総額がその分減らされていました。そのため、被相続人が、自分の死後に配偶者が生活に困らないようにと生前贈与をしても、配偶者が受け取る財産の総額は生前贈与をしないときと変わりませんでした。
今回の改正では、自宅についての生前贈与を受けた場合、配偶者はより多くの相続財産を得て生活を安定させることができるようになります。 (令和元年7月1日施行)
改正前には、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などでお金が必要になった場合でも、遺産分割協議が終了するまでは被相続人の預貯金の払戻しができないという問題がありました。このような相続人の資金需要に対応できるよう、遺産分割前でも預貯金債権のうち一定額については、家庭裁判所の判断を経ずに金融機関で払戻しができるようになりました。 (令和元年7月1日施行)